目次
あらすじ
主人公は、素敵な彼女と生きる才能に溢れた資産家だった。そんな彼が、今までの人生を捨て、7人の人々に接触し始める。ベン・トーマスと名乗り、時には人々を遠くから見守り、時には酷い言葉を投げかけ、まるでその本性を探るかの様に見つめる。彼は一体何の為に、自分以外の人々に執着するのか。そして、異常なまでに自分に執着しないのはなぜなのか。 少しずつ物語の内容が紐解かれていくうちに、7人の命を救う彼の本当の想いと、贈り物が明らかになって行く。
ストーリーの展開
物語が進んでいく間、何が真実なのか、何がどう繋がっているのかが少しずつ分かって行きますが、序盤ではまだわからない事だらけです。物語は、ベンが1人でモーテルに滞在しながら、国税庁の社員として、様々な人を訪ねて行く事で進んで行きます。
ただ、時折フラッシュバックの様に、過去の映像が出てきます。そこでは今の仕事ではなく、資産家で、恋人と優雅な暮らしを送っている映像でした。それが一変し、現在がある事が分かります。
過去の優雅な思い出と、彼の体の傷と、モーテルでも大切にしているクラゲと、コンタクトを取る7人と。どんな糸で繋がって行くのかは、最後の結末まで分からない様になっています。ぜひ最後まで見て、どんな感想を持つか感じてみて欲しいです。その後に見返すと、また違った角度から物語が見れる様になる深い作品になっています。
ベンの優しさ
ベールに包まれた中でも、少しずつ明らかになってくるのが、ベンの性格です。哀愁の眼差しをしていますが、様々な箇所でその優しさが表れています。
ベンが、心臓病を持つエミリーに何かお話をする様に頼まれた時、ある男の子のお話をします。聞いていくうちに、これがベン本人のお話だと気付く方も多いと思います。その男の子は、何度も弟に飛行機を作ってあげます。ベンは小さい頃から家族思いだったと分かります。
また、自分の事は話したがらないベンですが、エミリーに事情を聞かれた際、マサチューセッツ工科大学を出た事、そしてエンジニアになり、人を月に連れて行きたいと思った事を話しました。ここで出てくる思いは、「自分が月に行きたいと思った。」のではなく「人を月に連れて行きたい。」というもの。こういった想いにも、彼の優しさが溢れています。
そして、お花を育てるエミリーの隣人に対し、「バナナの皮を使うと良いよ。」とアドバイスをします。ここからも、孤独に生きて来たわけではなく、植物を大切に育てていた事がある事が伺えます。
そんな優しさを持つ主人公だからこそ、こういった人生を送ったのだという事を念頭に置いてもらうと、彼の想いが伝わりやすいかと思います。
邦題『7つの贈り物』: 原題『Seven Pounds』
題名には、どの様な意味が込められているのでしょうか? 原題の poundsには、お金や重さ等様々な意味があり、Seven Pounds は、ベンが7人に直接与えた贈り物の総重量に近いと言われています。ただ、様々な事を考えさせるこの物語において、それだけの意味ではないのは容易に分かります。
Pondsというと『ヴェニスの商人』に出てくる “pounds of flesh”を思い起こさせます。これは、主人公ヴェニスが高利貸しにお金を借りる際、返す事が出来なければ、彼の肉1ポンドを与えなければいけないという条件の部分です。この事から、”pounds of flesh” とは、”致命的な代償” という意味で表される様になりました。7つの大きな代償という意味も含まれているのではと考えます。
また、pound は、ドンドン等、ドラムを叩く様な動作や、強打音を表したりもします。彼自身、7回の大きな鼓動の変化や、自ら致命的な行為を行う事に繋がるという意味も含まれているのかもしれません。
7にまつわるもの
In seven days, God created the world. And in seven seconds, I shattered mine.
「神は7日で世界を創造した。僕は7秒で人生を叩き壊した。」
冒頭の文言にも”7”が使われている様に、この物語は”7”が多く関係しています。”7”とは、聖書において神聖なる数字とされているそうです。
7つの悪徳
カトリックにおいて罪の根源とされる感情も7つで表されています。聖書に記されているものではなく、4世紀頃に神学者により作られ、ローマ教皇が世に示したものです。
1.傲慢
2.嫉妬
3.憤怒
4.怠惰
5.強欲
6.暴食
7.色欲
相反するもの
7つの美徳
7つの悪徳に対して、7つの美徳というものがあります。西暦400年頃、プルデンティウスによって書かれた「プシュコマキア」(魂の戦い)に、記されています。
1.謙虚
2.感謝・人徳
3.忍耐
4.勤勉
5.慈善・寛容
6.節制
7.愛、純潔
この物語の7人への想いと、深く関係している様に感じられるものです。
世界一危険で、美しいもの
ベンは小さい頃に見たクラゲに魅了されます。クラゲは、毒を持ち、”世界一危険な生き物” と説明されます。それに対して、主人公は、”世界一美しい生き物”と唱えます。
この生き物が、この物語の大きな結末を迎えるキーポイントになります。 世界一危険で、美しいもの。このベンの生き方が果たしてどちらなのか。映画を見て感じてみて欲しいです。 また、水の中を泳ぐこの綺麗なクラゲが、移り行く人々の心や、魂の行く先を表現している様にも見えます。
「誰が見ていない時も、君は良い人だった」
これは、ベンが贈り物をする相手に向けた一言です。作中には、深い思いが感じられる名言が沢山出てきます。その中でも、この想いこそが彼の神髄にあるものなのだと思わされる一言です。
監督ガブリエレ・ムッチーノと再タッグ
『幸せのちから』(2006) のガブリエレ・ムッチーノ監督が指揮を執っています。この映画は、事業で成功を掴んだ男性が、事業の失敗からホームレスになり、その後幸せを掴むまでのお話で人気を博しました。これは実在するクリス・ガードナーの人生を描いたストーリーです。ウィル・スミスがクリスを演じ、第79回アカデミー賞で主演男優賞にノミネートされました。『七つの贈り物』では、とても息がぴったりのコンビとして、再注目されました。
魅力的な共演人
エミリー・ポーサ
心臓に疾患のあるエミリー・ポーサを演じたのは、ロザリオ・ドーソンです。プエルトリコ人とキューバ人の混血である母親とネイティブ・アメリカン、アイルランド人の混血である父親のもとに生まれました。家のポーチで座っていた所をスカウトされたそうで、雰囲気も周囲を魅了するものがあったのでしょう。
今回は落ち着ついたキャラクターを演じましたが、ミュージカル『レント』の映画版ではミミを演じ、力強い歌唱力を見せつけました。
また、『メン・イン・ブラック2』では、コミカルにキャラクターを演じました。ピザ屋さんの店員かと思いきや、実はザルタ星人のお姫様で、ウィル・スミス演じる主人公Jと恋に落ちます。そうです、2人はここでも共演していました。最後には世界を救うため地球を離れ惑星ザルタに向かい、2人は離れ離れになってしまいましたが、こうして別な形で共演し、また恋に落ちるのですね。どちらの作品も知っていると、感慨深いものがあります。
ウィル・スミスについて
陽気な役を演じる事が多く、力強い歌を歌う彼には、珍しい役だと思います。現在と過去を入り交えながら、切なく、優しい眼差しを表現できたのは、彼自身が思いやり深い人物だからではないでしょうか。
彼は、94回アカデミー賞授賞式で、クリス・ロックがウィル・スミスの妻、ジェイダの脱毛症を比喩するジョークを言った事で、ウィル・スミスがクリスをビンタし、騒動となりました。衝撃的ではありましたが、ウィル・スミスが愛に生きる人物だという事はよく分かりますね。
ベンのとった行動は、受け取る方それぞれで違うと思います。主人公を演じたウィル・スミスも、とてもダークな部分な痛みを抱えているキャラクターを演じるものとして、普通の生活が大変だったと話しています。また、もし自分が贈り物を受け取ったらどう感じるかという問いについて、贈り物を受け取った側は、『自分の人生を豊かに生きてくれ』という思いを受け継ぎ、それを守り、責任を持って生きていかなければいけないと思うと伝えました。
また、ベンのロザリオへの気持ちをどういったものだったのかという問いには、受け手の価値観次第だと思うと答えています。ベンは愛と自己犠牲によって計画を成し遂げたのだと思うけれど、心に深い傷を負っていたので、どういった精神状態だったのかは、今でも解釈に揺れていると伝えました。主演のウィル・スミスも様々な解釈をして欲しいと望んでいるようですね。
まとめ
単純に、美しい行為だとは言い難いベンの生き方。ただ、命の大切さ、そして自身の生き方を改めて考えさせられる映画になっています。あなたも、ベンの言う、「誰が見ていない時も良い人であった」と言われますように。