作品データ
原 題 | Black Swan |
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製作年 | 2010年 |
製作国 | アメリカ |
監 督 | ダーレン・アロノフスキー |
受 賞 | 第83回(2010)アカデミー賞主演女優賞「ナタリー・ポートマン」
第67回(2010)ヴェネチア国際映画祭マルチェロ・マストロヤンニ賞(新人俳優賞)「M・クニス」 |
概要
『レスラー』のダーレン・アロノフスキー監督と、『スター・ウォーズ』シリーズのナタリー・ポートマンがタッグを組んだ心理スリラー。内気なバレリーナが大役に抜てきされたプレッシャーから少しずつ心のバランスを崩していく様子を描く。芸術監督を演じるのは、フランスを代表する俳優ヴァンサン・カッセル。主人公のライバルを、『マックス・ペイン』のミラ・クニスが熱演する。プロ顔負けのダンスシーン同様、緻密な心理描写に驚嘆する。
あらすじ
ニナ(演:ナタリー・ポートマン)は母エリカ(演:バーバラ・ハーシー)の熱心な庇護のもと、バレエに全てを捧げ励んでいた。所属する劇団のプリマ交代の時期に『白鳥の湖』の上演が決まる。紆余曲折あったがニナは演出家のトマ(演:ヴァンサン・カッセル)の心を掴み、主役に抜擢される。喜びも束の間、ニナは役へのプレッシャーに押される。『白鳥の湖』はプリマが清純な白鳥と官能的な黒鳥の2役を踊る。完璧主義で生真面目なニナは白鳥の演技は完璧であったが、女性としての性的魅力に欠けると言われるニナにとって黒鳥を官能的に踊ることに苦戦していた。そこへ新人でありライバルのリリー(演:ミラ・クニス)が現れる。自由奔放で性的な魅力にあふれたリリーの存在がニナにとって脅威的なものとなり、ニナは次第に追い詰められ、現実と幻影があやふやになっていく。ある日、エリカの監視に耐えられなくなったニナはリリーと夜遊びをし、初めてのドラッグや男性と関係を持つことの愉しみを知る。翌朝、新たな愉しさを覚えたニナの踊りは前日までとは変わり、官能的な黒鳥の踊りも魅力的に踊れるようになっていた。しかしニナは幻覚と現実がわからなくなっていき、公演前日には舞台裏でトマとリリーが性行為をしている場面に遭遇するが、トマが黒い羽を纏った姿に変形していき、リリーの顔もだんだんニナの顔に変わっていくという幻覚をみる。帰宅しても幻覚は止まず、母が描いた絵が自分をあざ笑うかのように見えたり、黒い羽根が背中から生えてきたりしてニナは気を失ってしまった。
公演当日、エリカはニナが役に潰されることを恐れて、劇団にニナ降板の連絡をしていたが、ニナは主役を演じること以外見えておらず劇場に向かった。ニナは幻覚が収まらないまま舞台に立った。最初は順調に役をこなすニナだったが、プレッシャーから大きな失敗をしてしまう。王子様役のダンサーがニナを受け損ね落としてしまったのだ。すっかり憔悴して楽屋に戻ると、そこには黒鳥のメイクをしているリリーの姿があった。そして黒鳥のメイクをしたリリーがニナ自身に変容していく幻覚をみながら、リリーと揉みあいになり、割れたガラスの破片でリリーを刺殺してしまう。ニナはリリーの死体を隠し、第三幕を踊るため黒鳥の姿で舞台に上がった。
ニナは情熱的に官能的に黒鳥を踊り、観客はその魅力に圧倒され、総立ちになり、あふれんばかりの拍手でニナを褒め称えた。
舞台を降りたニナが楽屋で待機していると、そこにリリーの死体はなく、ニナの踊りに感動したリリーが激励の言葉をかけに現れた。この時ニナは先ほどリリーと争ったことは幻覚で、刺したのはリリーではなく自分自身だったということに気づいた。
第四幕が上がりニナは完璧に白鳥を踊りきった。最後に白鳥が飛び降り、自殺するシーンまで演じきったニナをたくさんの拍手が包み込む。トマが駆け寄り、ニナの熱演を賞賛する中、ニナは「完璧よ」とつぶやき目を閉じた。
ある夜、ニナは母親と諍いを起こし、リリーに誘われクラブへと飲みに出かける。酔った勢いでニナは麻薬を使い、男性と性行為に興じる。その後ニナとリリーはニナのアパートに帰ったが、また母親と言い争いになってしまう。ニナはリリーと二人だけで自分の部屋に閉じ篭り、リリーと性行為に耽り、やがて寝込んでしまう。翌朝ニナが目を覚ますと彼女は一人で、一緒にいるはずのリリーはどこにもいなかった。練習場に駆け付けて見ると、その練習はリリーが白鳥の女王役を踊る形で始まっていた。ニナはリリーに対して、なぜ起こしてくれなかったのかと怒りをぶちまけるが、リリーは昨晩はクラブで出会った男性と一夜を過ごしたと言う。アパートでの二人の出来事はニナの妄想であった。
ニナの幻覚や妄想は日増しに酷くなり、『白鳥の湖』の開演を翌日に控えた前夜、トマと舞台裏で性行為をしているリリーが徐々にニナ自身に変身して行くという幻覚症状に襲われる。帰宅後も母親が描いた数多くの絵が自分のことを嘲笑っているように見えてしまう。さらに自分の身体までも鵞鳥のように化かすと、遂にニナは気を失ってしまう。
いよいよ公演が始まる日の夕方ニナが目覚めると、体調を崩し舞台に出られないと劇場に連絡した、と母に告げられる。ニナは母を乱暴に振り切り、劇場へ向かう。劇場ではリリーが白鳥の女王を踊る準備を進めていた。ニナはそんな経緯を無視し、「代役は不要」とトマに告げると白鳥として踊る準備を整えた。
第一幕は順調に滑り出したかに見えたが、やがてニナは幻覚を見始め、仕舞いには王子役のバレエ・ダンサーがニナを受け損ない落としてしまう。すっかり憔悴して楽屋に戻ると、そこには黒鳥の化粧をしているリリーの姿があった。そして眼前でリリーがニナ自身の姿へと変容する幻覚を見ながら、彼女と揉み合いになり、割れた鏡の破片でリリーを刺殺してしまう。ニナはリリーの死体を隠し、第三幕を踊る為、黒鳥として舞台に登場した。
ニナはまるで身も心も黒鳥となったかのように、情熱的にそして官能的に踊り、観客は総立ちで拍手をしてニナを褒め称えた。舞台を下りると、ニナはトマと抱き合い口付けを交わす。しかしニナが楽屋で待機していると、そこにニナの踊りに感動したリリーが激励の言葉をかけに現れた。この時、ニナはリリーと争ったことは現実ではなく幻覚だったこと、鏡の破片で刺したのもリリーではなく、自分自身だったということに気付く。
第四幕(最後幕)舞台が始まり、ニナは結末を完璧に躍りこなした。最後の白鳥が崖から跳び下りて自らの命を断つ場面を演じながら、ニナは観客の中に母がいて感動してすすり泣いていることに気付いた。観客はまた総立ちになり劇場全体に割れんばかりの拍手が響き渡った。観客席が感動に包まれ、リリーはニナを褒め称え、トマはニナを抱擁した。しかし、その直後、ニナはその場に崩れ落ちる。完璧なバレエを舞いきったニナは、恍惚とした表情で宙を見上げるが、その視界は徐々に白んで行くのだった。
ナタリー・ポートマン
1994年『レオン』のマチルダ役でデビューしたナタリー・ポートマンは、幼いながらも冷酷な環境で生き抜く少女の内面を見事に表現し、大きな注目を浴びた。本作でバレリーナを演じた彼女は心理的葛藤や狂気を見事に演じ、アカデミー賞主演女優賞に輝いた。プライベートでは本作で共演したダンサー・振付師のバンジャマン・ミルビエと結婚。その後も個性的な役柄や挑戦的な作品にも積極的に取り組み、その演技力と才能は現在も高い評価を受けている。